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2018年1月15日

反対株主の株式買取請求権(会社法116条)

反対株主の株式買取請求権(会社法116条)

株式の内容を変更して譲渡制限や全部取得条項に関する定めを設ける場合、特定の種類株主に損害を及ぼすおそれのある行為が行われるときに種類株主総会決議が省略される場合(会社法322条2項)、組織再編が行われる場合等に反対株主の株式買取請求権が認められます。

ここでは、全部取得条項に関する定めを設けるときに、これに反対する株主から株式買取請求がされたケースを念頭に問題点を解説します。なお、組織再編が行われる場合の反対株主の株式買取請求権(会社法469条、会社法785条、会社法797条、会社法806条)は別途解説を行う予定です。

1. 反対株主の株式買取請求権とは

反対株主の株式買取請求権は、会社が一定の行為をする場合において、(i)会社は当該行為の効力発生日の20日前までに株主に通知又は公告を行い、(ii)会社の当該行為に反対する株主は効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに株式買取請求を行うことによって、(iii)株式会社に対して保有株式を公正な価格で買い取らせることができる制度です。

買取請求権を行使できる株主は誰か、どのような手続で株式買取請求が行われるのか、公正な価格とはどのように判断されるのかが問題となります。

2. 株式買取請求権を行使できる株主は誰か

(1)          反対株主

株式買取請求権を行使できるのは「反対株主」(会社法116条2項)です。そして、反対株主とは、(i)株主総会に先立って反対する旨を通知し、かつ株主総会において反対した株主、(ii)株主総会において議決権を行使できない株主、(iii)株主総会決議が不要な場合は全ての株主となります。

従って、議決権制限株式については、そもそも株主総会決議で反対の議決権行使をすることはできませんが、株式買取請求権は行使することができることとされています。

(2)          基準日後の株主について

株主総会に基準日が設定された場合、基準日後の株主は議決権を行使することができません。そのため、基準日後の株主も「反対株主」に含まれるのかが問題となります。この点に関しては、両説がありますが、基準日後に株主となった者でも株主総会までに株主名簿に記載又は記録されることを要件として株式買取請求権を認める見解が有力だと思われます(江頭憲治郎「株式会社法(第7版)」845頁)。

なお、この点に関連して、基準日前の株主であっても名義書換を怠って株主名簿上の株主でなかった者は反対株主に該当しないと判断した裁判例があるので注意が必要です(東京地裁平成21年10月19日決定)。

(3)          公表後の株主

株式買取請求権の対象となる行為が公表された場合、株主はその行為が行われることを知って株式を取得しているため、反対株主の株式買取請求権による保護を与える必要がないと考えられます。そこで、公表後の株主に株式買取請求権の行使を認めるかが問題となります。

この点に関しては、公表後に取得した株主についても買取請求権の行使が裁判例上は認められています(東京高裁平成21年7月17日決定)。もっとも、当該行為を認識して株式を取得したこと等を買取価格の決定にあたって考慮するという考え方もあり、この点に関しては裁判例も分かれており定説はないようです。

ある行為を企業が公表したとしても基準日時点では株主がその計画を把握できない場合があること、計画が公表されても株主総会決議が成立しない可能性もあることもあります。そうすると、公表後の株主であっても、価格操作を目的とする不正な手段等により株価が影響されたと認められる特段の事情のない限り、市場価格を算定の基礎として株式買取請求権の行使を認めるのが合理的なように思われます(東京高裁平成21年7月17日決定も同旨)。

3. 株式買取請求の手続

(1)          会社による通知又は公告

株式買取請求権が認められる行為を行う場合、会社としては効力発生日の20日前までに当該株主に対して通知するか、又は公告をする必要があります。なお、株主総会の招集通知に必要事項が記載されていれば、株式買取請求の手続における通知に代えることができると解されています。従って、株主総会の招集通知を法定期限より早期に行うことができれば、招集通知のみとすること実務的な対応のように思われます。

(2)          どの程度の記載が必要か

旧商法下で営業譲渡を行った場合において、株主総会の招集通知に議案の要領が記載されていなかった場合は株主総会決議の取消事由となり、かつ裁量棄却も認められないと判断した判例があります(最高裁平成7年3月9日判決)。この事例では、営業譲渡の対価等の内容はまだ確定しておらず、営業譲渡対象部門の資産、負債等の内容が記載された営業報告書が招集通知に同封されていた事案でした。しかし、判例はこの程度の記載は「議案の要領」として不十分だと判断しているのであり、「議案の要領」をどの程度記載するべきかについて慎重な判断が必要だと思われます。

(3)          反対株主による株式買取請求権の行使

株式買取請求権を行使しようとする場合、株主総会決議で議決権行使ができる株主は、株主総会に先立って反対する旨を会社に通知する必要があります(事前の通知)。

さらに、反対株主は効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに、株式買取請求を行う株式数を明らかにして株式買取請求を行う必要があります(株式買取請求権の行使)。

事前の通知、及び株式買取請求権の行使方法に関して、会社法上はとくに規定がないことから、書面・口頭のいずれでも良いと解されます。

4. 「公正な価格」

株式買取請求権を行使した場合、会社は当該株式を「公正な価格」で買い取る必要があります。しかし、「公正な価格」は一義的に決まるものではありません。そのため、「公正な価格」とは何を巡って様々な議論がなされています。

(1)          価格決定の流れ

株式買取請求がなされた場合、まずは株主と株式会社の間で価格の決定について協議を行うことになります。この協議が調ったときは、株式会社は効力発生日から60日以内に支払いをしなければなりません。

他方で、現実的には価格の決定について株主と会社の間で見解が相違し、協議によっては価格を決定することが難しいケースの方が多いと思われます。効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、その期間満了後30日以内に株主又は会社が裁判所に対して価格決定の申立てを行うことができます。従って、最終的には裁判所が「公正な価格」とは何かを決定することになります。

なお、価格決定の申立てがなされなかったときは、反対株主は株式買取請求を撤回することができるとされています(会社法117条3項)。この点は、譲渡制限株式の譲渡不承認の場合の売買価格決定において、申立てがなかったときは純資産価額を売買価格とするとされていることと相違があります(会社法144条5項)。株式買取請求権を行使する場合、価格決定の申立てを行わないと、反対株主は、(i)会社と協議を行うか又は(ii)株式買取請求権を撤回することしか選択できない不利な立場になるため注意が必要です。

(2)「公正な価格」の考え方

「公正な価格」は、譲渡制限・全部取得条項を付す定款変更を行う場合、又は合併等の組織再編行為を行う場合のいずれでも株式買取請求権の効果として同一の文言が使われています。しかし、組織再編行為を行う場合は当該行為による企業価値の増加を反映した価格によるべきと考えられているのに対し、譲渡制限・全部取得条項を付す定款変更を行っても企業価値は増加しないためかかる考慮が不要です。従って、「公正な価格」と同一の文言が使われていながらも、組織再編行為とはその考え方が異なることに注意が必要です。

①上場会社の場合

上場会社の場合は市場価格が存在するため、基本的には市場価格を前提として、どの時点や期間の市場価格をもって公正な価格とするかが問題となります。この点に関して、判例は裁判所の合理的裁量を重視し、株式買取請求権が行使された日の終値を「公正な価格」と判断しています(最高裁平成23年4月19日判決)。

この事案は吸収合併の事案ですが、合併による企業価値が増加しないと認定されているため、譲渡制限・全部取得条項を付す定款変更と同一の考え方と言えます。もっとも、判例はどの市場価格を用いるかについて明確に判示しているわけではなく、最終的には裁判所が諸々の事情を考慮してどの時点、どの期間の市場価格を採用するかを裁量で決定できることになると思われます。

②非上場会社の場合

他方で、非上場会社は市場価格がないため、「公正な価格」を判断することが相当程度困難になります。DCF方式、配当還元方式、収益還元方式、純資産方式、類似会社方式等の様々な手法が考えられますが、かかる手法の1つを選択し又は複数の方式を割合的に用いて算定されることになります。

実務上は鑑定を利用して株価を算定することになります。鑑定費用は相当高額になることからこの点が問題となりますが、鑑定費用を含む手続費用は、特別の定めがない限り、各自負担とされています(非訟事件手続法26条1項)。

会社法116条
(反対株主の株式買取請求)
第百十六条 次の各号に掲げる場合には、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する当該各号に定める株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
一 その発行する全部の株式の内容として第百七条第一項第一号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 全部の株式
二 ある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号又は第七号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 第百十一条第二項各号に規定する株式
三 次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式(第三百二十二条第二項の規定による定款の定めがあるものに限る。)を有する種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき 当該種類の株式
イ 株式の併合又は株式の分割
ロ 第百八十五条に規定する株式無償割当て
ハ 単元株式数についての定款の変更
ニ 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第二百二条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
ホ 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第二百四十一条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)
ヘ 第二百七十七条に規定する新株予約権無償割当て
2 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主をいう。
一 前項各号の行為をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該行為に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
二 前号に規定する場合以外の場合 すべての株主
3 第一項各号の行為をしようとする株式会社は、当該行為が効力を生ずる日(以下この条及び次条において「効力発生日」という。)の二十日前までに、同項各号に定める株式の株主に対し、当該行為をする旨を通知しなければならない。
4 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
5 第一項の規定による請求(以下この節において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
6 株券が発行されている株式について株式買取請求をしようとするときは、当該株式の株主は、株式会社に対し、当該株式に係る株券を提出しなければならない。ただし、当該株券について第二百二十三条の規定による請求をした者については、この限りでない。
7 株式買取請求をした株主は、株式会社の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。
8 株式会社が第一項各号の行為を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う。
9 第百三十三条の規定は、株式買取請求に係る株式については、適用しない。
会社法117条
(株式の価格の決定等)
第百十七条 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と株式会社との間に協議が調ったときは、株式会社は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。
2 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は株式会社は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。
3 前条第七項の規定にかかわらず、前項に規定する場合において、効力発生日から六十日以内に同項の申立てがないときは、その期間の満了後は、株主は、いつでも、株式買取請求を撤回することができる。
4 株式会社は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。
5 株式会社は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、当該株式会社が公正な価格と認める額を支払うことができる。
6 株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる。
7 株券発行会社(その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めがある株式会社をいう。以下同じ。)は、株券が発行されている株式について株式買取請求があったときは、株券と引換えに、その株式買取請求に係る株式の代金を支払わなければならない。